インド映画夜話

危険なUターン (U Turn) 2016年 121分
主演 シャラッダー・スリナート & ディリープ ・ラージ & ロジャー・ナラーヤン
監督/脚本 パワン・クマール
"なぜ…なぜ殺したの!! "




 ーこれは、実話から着想された物語である。

 バンガロール(現ベンガルール)の雑誌社インディアン・エクスプレスの研修生ラチナは、毎日母親からの「結婚しろ」攻撃を軽くいなす現代っ子。
 一方で、会社の先輩である犯罪記事担当のアーディティヤとのデートの口実に、多発化する高架橋の交通事故を追跡取材中。その相談がてらアーディティヤとの仲を進展させていくラチナだったが…ある夜のデートの帰り、アーディティヤと別れた直後にいきなり警察がやって来て、ラチナを連行すると言う!

「いったいサンダル氏とお前はどういう関係なんだ!? 素直に白状しろ!!」
「サンダル…知りません。面識はないんです。ただ、私は高架橋交通事故の取材をしているので、その取材先として家を訪ねただけです! でも、私が行った時は留守でした!」
「ほう…つまりお前はサンダル氏を殺していないと?」
「!! ……なぜそんな事を私がするんですか? 私はインディアン・エクスプレスの正社員になりたいだけです。そのためには評価される記事を書かねばなりません…だから、高架橋の中央分離ブロックをどけてUターンする違反ドライバーを探していたんです。放置されたブロックが、交通事故多発化の原因ですから!!」
 彼女の話に興味を示した捜査官の1人ナーヤク警部は、彼女の取材協力者と言う高架橋で生活する浮浪者の事情聴取を始めようとするが、そこからさらなる衝撃的事実が浮き彫りになる…「貴女が浮浪者の協力で作成したと言うこの違反車両リスト!……その車両ナンバーの持ち主全員が、リスト記載の日付のうちに自殺している! 10人全員がだぞ!! 何を隠している! 正直に真実を言え!!」




 「ルシア(Lucia)」の監督パワン・クマールによる、「ルシア」に続く3本目の監督作となるカンナダ語(*1)映画。

 大ヒットに乗って、2017年にマラヤーラム語(*2)リメイク作「Careful(お大事に)」が公開。2018年にはテルグ語(*3)/タミル語(*4)同時製作映画「U Turn」、2019年にはスリランカ映画リメイク作「U Turn」、2020年にはフィリピン映画リメイク作「U Turn」、2021年にはベンガル語(*5)リメイク作「Flyover(高架橋)」、2023年にはヒンディー語(*6)リメイク作「U-Turn」も公開されている。
 日本では、Netflixにて配信。

 インドで実際に問題になっているらしい、中央分離ブロックを動かしたまま車道に放置して、重大な交通事故を誘発するドライバー慣習を糾弾するスリラー映画。
 映画冒頭は、喧嘩しながらもなんだかんだ仲のよい母親との会話を楽しむ現代っ子主人公の「仕事に恋に、自分らしく生きてますよ!」の爽やか都会人ライフストーリーで始まりながら、本題に入った頃の不可解な殺人容疑で連行された主人公を襲う警察たちの横暴は、社会派サスペンスの色が濃厚。自分本位な警察組織やドライバーたち、不穏な高架橋の事件現場の雰囲気と、そのまま政治的な陰謀にでも発展しそうな物語であるのに、危機感を持った主人公が発見した違反ドライバーの2人組の兄ちゃんが拘留中に殺し合いを始めたあたりから、映画は急にホラーテイスト強目になって来て「実はオカルティックな事件だったのですよ!」とその正体を暴露していく。その映画としての変幻自在な語り口の高密度さが、それでも見やすく展開していくんだから凄まじい。

 主人公ラチナを演じたシャラッダー・(ラーマ・)スリナートは、1990年ジャンムー・カシミール州(*7)ユーダンプール県ユーダンプールのカンナダ語家庭生まれ。
 父親はインド陸軍将校、母親は教師をしていて、父親の仕事の関係でインド各地を転々として陸軍学校を卒業後、バンガロール(*8)で法学を修了する。
 大学卒業後、不動産弁護士、外資小売会社の不動産法務顧問を勤めながら演劇活動に参加。広告モデルとしても活躍し始め、2015年のマラヤーラム語映画「Kohinoor(コ・ヒ・ヌール)」でセカンドヒロインに抜擢されて映画デビュー。続く本作でカンナダ語映画&主演デビューして数々の主演女優賞を獲得して一躍映画スターに。翌2017年には、主演作「Operation Alamelamma」でフィルムフェア・サウスのカンナダ語映画批評家選出女優賞も獲得した他、同年には「吹き渡る風に(Kaatru Veliyidai)」のカメオ出演を含め「Ivan Thanthiran(彼は策士)」「ヴィクラムとヴェーダ(Vikram Vedha)」「Richie」の4本でタミル語映画にもデビュー。2019年には「Milan Talkies」でヒンディー語映画に、「Jersey」「Jodi(恋人)」でテルグ語映画にも主演デビューしている。以降、テルグ語・タミル語映画界を中心に南インド映画界全般で活躍中。

 ラチナと共に事件の捜査をするナーヤク警部を演じたのは、カンナダ語映画界、英語映画界で活躍するロジャー・ナラーヤン(生誕名ラージ・ナラーヤン)。
 ラージャスターン州の大学で工学を修了後、俳優になる夢を抱いて複数の演劇学校に通い「ステレオタイプなインド人役にはならない」と芸名を"ロジャー"に変え、TVドラマ出演を経て英語映画の端役出演、声優を担当。2014年の英語+スペイン語+ヒンディー語映画「Hola Venky! (よう、ヴェンキィ!)」で主役デビュー。2015年には「Extra Extra LARGE」他複数の短編映画の監督、プロデューサー、出演も勤めている。
 本作でカンナダ語映画デビューとなって活躍の場を大きく広げ、以降、カンナダ語映画界を中心に多言語映画、サンスクリット(*9)・アニメ映画「Punyakoti(賞賛されるべき仕事)」などで活躍中。

 前半のUターン事件か不穏に繰り返される「U」の字の暗示を伏線としながら、「今日のラッキーアイテムだよ!」と母親に言われてデートに着ていった主人公の赤いトップスが、連行される主人公を襲う不条理の象徴のような色合いに見えてくる皮肉も効果的。
 超常的な存在による殺人を証明できないドキドキ感が主人公を苦しめながらも、画面的にはそこまで恐怖感はなく、日本の怪談にも通じる人生の不条理や悲哀を前面に出した人情劇的色合いが濃いのも見やすい仕掛けでしょか。まあ、そんな簡単に証拠もなく殺人できる能力を持った存在が、間違った相手をターゲットにすんなよ、とか思わないではないですけど、ラスト30分に畳み掛けてくるドンデン返しの連続、超常存在の抱える悲しみの深さ、それを体験する主人公の覚悟と衝撃の大きさがダイレクトに見る側へも伝わってくるインパクトはなんつーか…カッコエエ! 観察者であるはずの自分を、次狙われるターゲットにしてみようと覚悟した時のラチナの立ち居振る舞いは、音楽効果もあってゾクゾクしますわ(キケンな兆候)。

 ラストのラスト、事件の真相が当事者たちの身に明かされた時の寂漠感、復讐としての殺人よりも重く苦しい懲罰が「懺悔しても晴らせぬ、死ぬほどの後悔を抱えたまま生きていく」という結論を導き出すところなんかは「インドやなあ…」と言う人生観、あるいは善悪感だなあ…とため息が出てくるインパクトですわ。
 のちに作られたテルグ語・タミル語リメイク作が主人公を最後まで事件の目撃者として関わらせたのに対して、こちらの主人公を突き放した当事者たちだけが真相にたどり着き事件が収束するやるせなさは、どちらが好みかは人によると思うけれども、微妙な変更による映画の後味の大きな変化は注目したい映画効果に見えてくる。こっちの怪談めいた寂漠感も映画の締めとしては美しいので余計にね…。

 エンディングに示される、違反ドライバーの実態を見せる実録っぽい映像にかかる「Real Events」の文字の説教臭さは、やや風刺映画的か啓蒙映画的な色合いが濃くなる終わり方ではあるけれど、お話の説得力って意味では「ホントに、そんな交通事情なんだ…」と言うインパクトも大きいので余計に恐ろしい…。




受賞歴
2017 Filmfarel Awards South カンナダ語映画主演女優賞(シャラッダー・スリナート)
2017 SIIMA (South Indian International Movie Awards) カンナダ語映画主演女優賞(シャラッダー・スリナート)・助演女優賞(ラーディカー・ナラーヤン)
2017 IIFA (International Indian Film Academy Awards) Utsavam カンナダ語映画主演女優賞(シャラッダー・スリナート)


「U Turn」を一言で斬る!
・Uターンドライバーの自殺前に象徴的に現れる『U』。色々なモチーフで登場する中に『幸運の象徴』『交通安全のお守り』として使われる蹄鉄が出てくる皮肉が…イイネ!

2026.4.17.

戻る

*1 南インド カルナータカ州の公用語。
*2 南インド ケーララ州とラクシャドウィープ連邦直轄領の公用語。
*3 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*4 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。スリランカとシンガポールの公用語の1つでもある。
*5 東インド 西ベンガル州、トリプラ州、アッサム州、連邦直轄領アンダマン・ニコバル諸島の公用語の1つ。バングラデシュの国語でもある。
*6 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。フィジーの公用語の1つでもある。
*7 現ジャンムー・カシミール連邦直轄領。
*8 現カルナータカ州都ベンガルール。
*9 古代インドのヴェーダ語を祖とするインド・イラン語派インド語群の属する言語。現代では、ヒマーチャル・プラデーシュ州、ウッタラーカンド州の第8付則指定言語。